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子どもとの関わり方 新学年を迎えて

子どもとの関わり方 新学年を迎えて

 

新しい学年が始まって1カ月が経ちました。この春中学校や高校に進学した生徒たちは、入学式にオリエンテーリング、授業や部活動開始と、ここまで息つく暇もない慌ただしい時を過ごしてきたことと思います。慣れないことばかりの上に、人間関係も新しくなり、気持の上でも安らぐことのない時を過ごしてきたことと思います。

生活の変化は、誰にとっても、心と体に対する強い圧迫として感じられるものです。経験豊富とは言えない子どもの場合、その圧迫は、大人の場合とは比べものにならないほど大きなものであると思います。

私たち大人は、ついそのことを忘れてしまい、大人であれば少しの辛抱で済む新しい環境への適応を、安易に子どもにも期待しがちであるかもしれません。しかし、子どもたちにとっては、新しい環境への適応は、大人には想像もつかないほどの膨大なエネルギーを必要とすることなのだと思います。新入生がこの時期心底疲れ果てた表情を見せるのは無理もないことだと思います。

しかし一方で、子どもたちの新しい環境への適応力は、私たち大人のそれとは比べものにならないほど大きい、ということも同じように言えると思います。ゴールデンウィーク頃にはそれこそ死にそうな顔をしていた子が、辛抱した末に、夏休みを迎える頃には見違えるようにたくましい顔をしている、ということはよくあります。大人もいずれは新しい環境に適応しますが、子どもは総じて私たち大人から見ればびっくりするほどのスピードで、それをやってのけます。

進学のような大きな生活上の変化に直面した子どもたちに相対する時、私たち大人が気を付けるべきことが2つあると思います。

1つは、子どもの心と体が発する変調のサインに敏感であることです。進学のような大きな生活上の変化によって、成長途上で基本的に不安定な子どもの心や体に何らかの障害が現れることがあります。辛いいじめに遭うとか、部活等で度を越したしごきを受けるといった特別に変わった体験をしなくても、進学という経験そのものが、子どもにとっては天地がひっくり返るほどのものです。

こうした障害は、早めに発見し、場合によっては専門家の力を借りてそれなりの対処をすれば速やかに軽減する場合がほとんどです。ただ子どもが自分の変調を自ら周りに話すことはまずないので、周りの大人が気を付けていなければなりません。

もう1つは、これは今言ったこととは矛盾するようですが、次から次にやって来る新しい経験に悪戦苦闘し、そういう経験の渦に飲み込まれそうになっている子どもに、大人があまりおせっかいな手を差し伸べないことです。我が子の苦しむ姿を見ていられなくてついということは、親であれば誰でもやってしまうことだろうと思います。しかし病的なものを感じるのでない限りは、それは結局子どもから成長する機会を奪うようなものだと思います。

子どもには私たち大人が想像する以上に新しい環境への適応力があります。そしてこの適応力は新しい環境の中で悪戦苦闘する中からしか現れて来ないため、そういう悪戦苦闘から子どもをむやみに「救い出して」やることは、子どもの成長を妨げることになるのです。

ちなみに「適応」とは言っても、私は、子どもは大人のこしらえた容れ物に素直に収まるべきだと考えているわけでは決してありません。むしろ逆で、私は子どもたちには、私たち大人がこしらえてきた窮屈な容れ物など内側からどんどん打ち破って、自分たちの夢を大胆に実現していって欲しい、そしてこの社会を大胆に変えていって欲しいと考えています。

けれどもそれには、一度はその窮屈な容れ物に、少なくとも見かけは、収まらなければなりません。子どもたちが自分たちの夢を実現するのは、どこにも存在しない夢の国においてではなく、まさにこの社会、この国においてであるからです。

新しい環境に戸惑っている子どもたちに対し、私たち大人は、一方ではいつでも戻って来て安心して休むことができる穏やかな港のようなものとして、また他方では荒波渦巻く人間世界という現実の大海に突き返す厳しさをもって、接する必要があると私は思います。

子どもたちには優しくたくましく育って欲しいと切に思います。

 

涌井 秀人