教室ニュース 水橋校ニュース教室長のきまぐれ日記ートンボ釣りの好きな少年ー

教室長のきまぐれ日記ートンボ釣りの好きな少年ー

教室長のきまぐれ日記ートンボ釣りの好きな少年ー
すでにここで何回も引用したことのある話をもう一度。
内田義彦さんという経済学者が書いた、「トンボ釣りの好きな少年」の話。トンボ釣りが三度の飯よりも好きな少年がいて、暇さえあればトンボを捕まえに出かけるのだそうです。「だがしかし」、と内田さんは言います。少年にトンボ釣りをやめさせるのは簡単だと。「それはただ一つ、『トンボを釣って来い』と毎日毎日、命令すること」。トンボ釣りを仕事にして、やらなければならない義務にしてしまえばいいのだ、と。人は、本来楽しみとしていたことであっても、いったんそれを義務としてやらなければならなくなると、とたんに苦痛以外の何ものでもなくなってしまう、と内田さんは言います。
勉強嫌いな子どもは多いですが、そういう子どもにとっての勉強は、ひょっとしたら必要以上の義務になってしまっている場合があるのかもしれません。そして「必要以上」というのは、あるいは親の期待が必要以上なのだと言えるかもしれません。
親が我が子に大きな期待をして何が悪い!と思われる方もおられるかもしれません。しかし期待もほどほどにしておかないと、子どもを必要以上に追い詰め苦しめることになりかねないと私は思います。
子どもは皆、自分の親が一番です。子どもはいつも、親に喜んでもらうことばかり考えていると言ってもまったく言い過ぎではないと思います。塾生の親御さんには、うちの子は親の言うことはまったく聞かない、先生の言うことなら聞きますから‥と言う方もおられますが、それはおかしいのではないか?と内心いつも思ってしまいます。かなり耳の痛い話であってもちゃんと聞いてくれるのは、お互いの間に信頼感―愛情に裏打ちされた信頼感―があればこそで、親子の関係を飛び越えてそれをまだ付き合いの浅い人間に求めるのは無理があるのでは?と思ったりもします。
学校の勉強で成果を出すためにしたほうがいいだろうと思えることはいろいろありますが、その1つは親子関係の見直しです。我が子のことに無関心であっても過干渉であってもいけないのは言うまでもないことですが、見ていると親というものは、油断するとどうしても我が子に干渉しすぎるほうへ傾いていくようです。
例えばテストの結果ということを考えてみます。テスト結果の良い悪いというのは100%主観的なものだと私は思っています。その子その子で当面目指すべき目標は違うはずだからです。90点取ることが当面目指すべき目標である子が70点取ったとすればこれは悪い結果ということになるでしょうし、50点取ることが当面目指すべき目標である子が70点取ったとすればこれは相当に良い結果ということになるでしょう。その辺りの評価基準を親子で話し合ってちゃんとすり合わせができているかどうかは、無駄な諍いを避けるために大切です。
しかしもっとずっと本質的ではないかと思うのは、子どもはいつでも、親に愛されたいと望んでいるということです。テストの結果を見て親がどういう顔をするかを子どもはよく見ています。親が穏やかな満足そうな顔をすれば子どもの愛情欲求は満たされますし、親が厳しい不満そうな顔をすればそうではないことになります。もちろんこういう辛い経験を1回や2回したからといって親子の関係にひびが入ることはないでしょうが、こういうことがあまりにたびたび繰り返されるとすればどうでしょうか?
たびたび親に否定される子は、親を喜ばせることが自分には難しいのだと思うようになるでしょう。テストで親を満足させる点数を取ることが難しいと思う子は、勉強に対して必要以上のプレッシャーを感じるようになっていきます。親を満足させられない苦痛を味わうかもしれないことへの恐怖です。このプレッシャーが、子どもが持つ苦手意識の本体と言えるものかもしれません。
ひとたび大きなプレッシャーを感じるようになると、何よりもまずのびのびとした気分で勉強に取り組めなくなります。数学などで応用力に難のある場合は、十中八九まで勉強がガチガチの枠にはまったものに萎縮してしまっています。苦労して考えようとしないので、解法パターンを覚えることはできても、発想力の乏しい、融通の利かない学力に終始してしまいがちです。
親御さんに何としても心がけていていただきたいと思うことは、勉強に関してはどんなことがあっても我が子を否定するような言動は慎むことです。そもそも否定せざるを得なくなるのは目標の立て方を間違っているためだと正しく認識することです。現状で一生懸命頑張って30点という子に、せめて60点以上は‥などと言って必要以上のプレッシャーを子どもにかけないことです。
我が子の能力を見切って諦めてくださいと言っているのではありません。そうではなくて、人にはその時その時の発達段階というものがあると言いたいのです。我が子の現状がどんなにふがいなく思えたとしても、子どもの今の発達段階に優しく寄り添っていてやるのが親というものではないでしょうか。
アルファ進学スクール水橋校 涌井 秀人