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教室長のきまぐれ日記ー芸術の秋ー

教室長のきまぐれ日記ー芸術の秋ー
季節はまさに秋真っ盛りです。そろそろ冬の気配を感じ始める頃でもあります。秋は何をするにもいい季節ということで、食欲の秋、読書の秋、芸術の秋などといろいろ言われます。その中でも今回は、芸術の秋ということで、少し考えてみようと思います。
といっても、普段芸術とは縁遠い生活をしている私などには、思いつくことはそう多くはありません。しかし学生時代このかた、そういうものは好きで、芸術に触れる機会があれば、ちょっと遠方であっても出かけて行って、できるだけ見たり聞いたりするように努めてきました。芸術などというものはそもそも無くても困らないものかもしれませんが、それでもなお、私たちの生活にとって大切なものだという予感をずっと抱いてきました。今は学生時代と違ってどこか遠くで面白そうな展覧会などがあっても、そう気軽に出かけていくことはできませんが、機会があれば、そういうものを半日ぐらいかけてゆっくり見て回りたいなという気持ちは今もあります。
美術でも音楽でも他のものでもいいのですが、何がそんなにいいかというと、私にとっては何よりもまず、普段慣れ親しんでいる生活から、ほんのいっときではあっても脱け出させてくれることです。乱暴かもしれませんが、芸術の経験とは、現実生活から逃避したいという秘かな?願望を満たしてくれるもの、と言ってしまってもいいように思います。
逃避というと聞こえは良くないかもしれませんが、昨今の世の中はすっかり世知辛くなってしまいました。「世知辛い」を国語辞典で引くと「打算的で人の心にゆとりがないさま。計算高くて抜け目がない」とあります。昨今は至るところまさにそんな感があります。貧すれば鈍する(貧乏をすると頭の働きが鈍くなり、さもしい心を持つようになる)ともいいますが、今の日本社会は、苦境を脱しようともがくあまり、健全な判断力をどこかに置き忘れ、迷走し始めているようにも見えます。勝ち組/負け組という言葉はひどく品がなく私は嫌いですが、そんな品のない言葉すらまだ呑気に思えるほど、今の日本社会は過酷な格差社会と化してきているようです。
問題なのは国がかつてに比べて貧しくなってきたことではなく、人の心があさましくなってきているように思えることです。例えば最近は車を走らせていると、特にのんびりと走っているわけでもないのに、後ろから煽られることが多くなったような気がします。しかしどうかして気が付くと、今度は私自身そういう行儀の悪いことをしでかしそうになっていることもあります。あさましくなってきていると言いましたが、決して他人事では済みません。
さて話を戻しますが、芸術のいいところは、そういう不愉快な有りさまをひととき忘れさせ夢見心地にさせてくれるところにではなく、むしろ悪い夢から私たちを目覚めさせてくれるところにあるのだと思っています。優れた芸術は、現実を普段とは違ったふうに見せてくれるものです。
生きることに汲々としてくると、人はほんのちょっとでも他人より先へ、というふうに考えてしまうものなのかもしれません。それは弱さだと私は思います。誰もが自分というものにしがみついて、他人を出し抜こうとするような社会は異常だと思いますが、そういう社会の中で日々あくせくしている人間には、その異常さが分からないということも十分にあり得ます。芸術は私たちの日常的な感覚からすると常にいっぷう変わったものですが、変わったものであることによって、この私たちの社会の現実が実はいかに異様なものであるかを照らし出すこともあるのだと思います。それは頭がクラクラするような経験ですが、芸術は決して毒にも薬にもならないようなものではありません。
ところで私の好きな画家の1人にアンリ・ルソーという人がいます。ルソーの描いた絵はどれも凄く変わっています。そしてその絵を見るといつも頭がクラクラします。ルソーを高く評価していたピカソは、ルソーの絵を子どもの絵と評したそうです。子どもの絵、それは自分の目標だったが、ついにそこに到達することはできなかったと晩年ピカソは語ったそうです。
子どもの無邪気さと芸術とはきっと深い所でつながっているのでしょう。子どもの感性からすれば、きっと勝ち組負け組ということに全く意味はありません。子どものようなものの見方は、日々あくせく動いている中ではなかなか持てるものではありません。しかしほんのいっときでもそういう見方ができるようになると、日々苦しんでいることが実はあまり苦しむに値することではなく、むしろ私たちは本当はもっと別の違ったことで頑張らなければならないことが思いがけず分かったりします。
まさに逃げろや逃げろ!というところだと思います。世の中の常識や日常生活の中であぐらをかいていてはいけないと、つくづく思う今日この頃です。
アルファ進学スクール水橋校 涌井 秀人